2020年から小学校でも英語が授業として行われることをご存知でしょうか。
小学校の英語教育に期待しておられる方もいれば、効果に懐疑的な方もいらっしゃると思います。
今の子どもたちが大人になるころには英語力なんて当たり前、という時代がやってくるでしょう。
お子さんが大人になったとき、英語で困らないようにするために、元小学校教諭の著者が、小学校の英語教育についての実情をお伝えします。
小学校での英語教育の実態と課題を知って、ご家庭でできることを今から考えていきましょう。
目次:
1.小学校での英語教育の到達目標ってどんなもの?
2.小学校の英語教育が抱える課題
3.ご家庭でもできる、英語教育の手助け
1.小学校での英語教育の到達目標ってどんなもの?
ここでは、小学校の英語教育が目指している内容についてご紹介します。
わたし(筆者)は昨年まで、某地方自治体で小学校の教員をしておりました。
わたしが勤務していた学校では、2020年に改訂される新学習指導要領を基に、英語教育を先行して実施していました。
ちなみに、2020年に改訂される学習指導要領というのはどんなものでしょうか。
指導要領の英語科の項を紐解いてみると、次のように書かれています。
「外国語によるコミュニケーションにおける見方・考え方を働かせ、外国語による聞くこと、読むこと、話すこと、書くことの言語活動を通して、コミュニケーションを図る基礎となる素質・能力を育成することを目指す。」
ちょっと分かりにくい言い回しですよね。
これはつまり、わたしたちが今まで中学校などで学んできたいわゆる「英語」の力を向上させることよりも、「英語を使ってコミュニケーションをとれるようになること」というのを目標にするよ、と言っているのです。
成果ではなく、活動そのものが目標になっているという点が特徴です。
そこで小学校の英語の授業では、次のようなことが行われるようになります。
1.ゲーム
2.英語の歌
3.読み聞かせ
4.チャンツ
小学校の授業では特に1.ゲームを中心に授業が組み立てられます。
例えば、友だちの好きな色を聞くゲームが設定されたと仮定します。
2.英語の歌や、3.読み聞かせでは、色に関する歌や本を使って子どもたちは英語の色の言い方について学習します。
さらに、ゲームで使う英語表現を覚えるために4.チャンツ(リズムに合わせて英語表現を口慣れするための学習活動のこと)を行います。
先述の「好きな色を聞く」というゲームならば、
「What color do you like?」
「I like red , and you?」
といったようなやりとりを拍子にのせて練習します。
こうした活動を通して、子どもたちは英語を使ったコミュニケーションに慣れ親しんでいくのです。
そして単元の最後のゲームでは、それぞれが自分の好きな色をカードに英語で書き、覚えてきた表現や単語を使って、クイズ大会をするというような学習の流れです。
このようにして新学習指導要領が目指す「聞くこと、読むこと、話すこと、書くこと」の言語活動が保障されるのです。
2.小学校の英語教育が抱える課題
しかし、こうした活動を通して、子どもたちに確かな英語力がつくでしょうか。
残念ながらわたしは自信を持って首を縦にふることはできません。
なぜなら英語を使って色をたずねたり、答えたりすることはできても、その他の英語の表現に応用ができるとは思えないからです。
こうした活動を繰り返したところで、英語学習の時間は所詮週に2時間です。(3、4年生は週に1時間)
覚えられる表現も一年間に10個もいかないでしょう。
正直に申し上げて、子どもたちに英語力がついているとは言い難いのがわたしが勤務していた小学校での英語教育の実情です。
3.ご家庭でもできる、英語教育の手助け
だからといって、わたしは小学校の英語教育について行うべきではないと考えているわけではありません。むしろ積極的に行うべきと考えています。
成果、という点では課題も多いと思う現状の小学校英語教育ですが、それでも、たとえばわたしのクラスの子どもたちが、英語のゲームややりとりを行うなかで、楽しんで英語に触れている、ということは、よくわかったからです。
英語を使ったコミュニケーションが、子どもたちにとっては楽しいのでしょう。
それを見る限り、小学校の英語の授業での活動と、学習指導要領で謳われていることに差異はないように感じます。
しかし、一番大切な将来を生き抜くための英語力にはつながっていません。
そのため、ご家庭では、英語力そのものを向上させるような学習と環境を補完してあげることが大切です。
その一つとしてわたしが提案できるのは、英語の本を読んであげることです。
ただやみくもに英語の本を読み聞かせるのではなく、絵本の中に同じセンテンスが繰り返されているような本がいいでしょう。
子どもたちが同じ表現を何度も聞き慣れていくうちに、子どもたちは自然と口ずさむようになっていきます。
これは、わたしも学校現場で体験したことですが、子どもたちは英語であろうと日本語であろうと覚えた表現は自分から繰り返すようになります。
そうした口慣れ、耳慣れをすると、さらに英語に対する関心も高まり、英語力の向上につながるでしょう。
ぜひこうした環境を整えた上で、さらに子どもたちの英語を鍛えてあげてください。
子どもたちが英語を楽しみ、自信をもって口ずさんだり、話したりすることができれば、2020年から始まる小学校の英語教育を存分に活かす手だてになるのではないしょうか。
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投稿日: Mar 06, 2019 | 閲覧数: 499 | カテゴリー:
英語教育関連記事
1.’95年-インターネット元年とグローバル化に向けた動き
2.‘08年に施行された現在までの学習指導要領とは
3.さらに進んだ2020年実施予定の学習指導要領
4.2018年現在の日本人の英語力は?
5.まとめ
1.’95年-インターネット元年とグローバル化に向けた動き
1995年にWindows 95が発売されたことを覚えていますか?
初めて一般的にPCが使われ、インターネットが日本に普及していったのが、Windows95の発売をきっかけにしています。
この年はインターネット元年ともいわれていますね。
その後、Windows98の登場で、オフィスだけでなく家庭内でもインターネットが普及しました。
それまでは「国際化」と称して、世界進出を拡大する日本企業の潮流から、コンピュータやインターネットという情報技術を駆使した「グローバル化」の時代に流れが変わったのがこのころです。
ちょっと難しい話になってしまいますが、2000年に「21世紀日本の構想」という報告書が、当時の首相であった小渕恵三氏の私的な有識者懇談会に提出されました。
この報告書のなかで、「21世紀に入ったのだから、(当時は21世紀というと、ものすごい「新しい」響きを持って取り上げられていました!)グローバル化に向かって動いていくことが必要だ。
そして、そのためには「英語を第2公用語にしよう」というアイディアが提唱されました。
これをきっかけとして、2001年に当時の文部大臣の諮問機関、
「英語指導方法と改善の推進に関する懇談会」
が発足されました。
さらに、翌年2002年には、
「『英語が使える日本人』の育成のための戦略構想」
が発表されました。
「英語ができない日本人」の汚名を晴らすべく、政府も一生懸命にがんばったのですね。
その後、2003年にはもう少し具体的な指導方針などを盛り込んだ、
「『英語が使える日本人』の育成のための行動計画」
が文部科学省より公表されました。
いずれも、グローバル化が進む世界潮流の中では、英語のコミュニケーション能力の重要性が増してくるため、英語コミュニケーション力の向上を、国家戦略として打ち出していこう、としたのです。
2.‘08年に施行された現在までの学習指導要領とは
戦後からずっと行われてきた日本の英語教育は、皆さんもご存知の通り「読み書き・文法」を主体に指導がなされてきました。
しかし、前章でお伝えしてきたような「グローバル化」で必要な英語力をつけるためには、今までのやりかたではだめだ!という意識が高まります。
このような、国際理解教育強化の流れに乗って、2008年に施行された現行の学習指導要領の下では公立小学校に外国語活動が正式に新設され、表現力や論旨の明快さ、内容の豊かさや説得力というようなコミュニケーション能力に力点が置かれました。
学習内容は地方自治体により異なりますが、多くの場合、簡単なあいさつ程度の英会話を学び、場合によっては月に一度程度、実際に外国人教師と英語で会話をする機会が設けられるケースが増えていきました。
3.さらに進んだ2020年実施予定の学習指導要領
2008年の学習指導要領の改定までは、
「小学校では英語教育は早すぎる」
という反対意見も多く、なかなかスタートが出来なかった公立小学校での英語教育ですが、だんだんと、今度は小学校英語教育の量・質の向上を求める声が増えてきました。
2013年末には、小中高を通じて一貫した学習到達目標を設定する、
「グローバル化に対応した英語教育改革実施計画」
が発表されました。
そこでは、小学校の外国語活動を3、4年生から始め、5、6年生の授業を「英語科」に格上げした上で、授業を週3回に増やす案が打ち出されました。
これが、2020年からの新学習指導要領の基礎になっています。
2014年には、
「今後の英語教育の改善・充実方策についての報告~グローバル化に対応した英語教育改革の五つの提言~」
が発表されます。
さらに、2016年には2020年からの新学習指導要領でのコア・カリキュラムの試案も発表されました。
そこでは、たとえばCAN-DOリストを作って学習到達目標を明確にしていこう、というようなことが書かれています。
4.2018年現在の日本人の英語力は?
それでは、2000年初頭に騒がれた「グローバル化」や「英語第二公用語構想」を経て、2018年現在の日本人の英語力はどうなったでしょうか。
2018年、わたしたちを取り巻く環境はますます国際社会が進み、国際的共通語としての英語によるコミュニケーション能力の重要性は増してきたと思います。
しかし、残念ながら、各種英語試験のスコアを見る限り、日本人の英語力は諸外国に比べて非常に頼りない状況が続いています。
2016年のTest of English as a Foreign Language (TOEFL:英語を母国語としない人々の英語コミュ二ケーション能力テスト)の国別ランキングを見ると、全世界170か国のうち日本の順位は145位です。スピーキングのスコアに限れば、何と170位と最下位という結果でした。
アジアの中では、英語を公用語としているシンガポールがダントツの成績です。
韓国はアジア内8位、中国はアジア内18位、日本はアジア内30か国のうち、下から4番目の26位でした。
小中高一貫での英語コミュニケーション能力強化の成果が表れるのは、まだまだ先が遠い状況であると言わざるを得ません。
5.まとめ
1995年のインターネット元年より、加速的にグローバル化が進みました。
それによって、英語力のなかでも「話す」、また、コミュニケーションをとる、と言った能力の必要性が叫ばれました。
民間だけでなく、政府もいろいろな提言や新しい学習指導要領を考えて、「英語の話せる日本人」になるべく切磋琢磨をしていますが、まだまだ「目標を達成できた!」というにはほど遠いのが現状です。
今後、新しい英語教育を受けてきた子供たちに、期待をしていきたいですね。
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投稿日: Dec 13, 2018 | 閲覧数: 588 | カテゴリー:
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